オムニチャネル戦略の新機軸~ファッション業界に見る次世代のEC体験

オムニチャネル戦略の新機軸~ファッション業界に見る次世代のEC体験

ECサイトが登場した当初、その存在は実店舗の存在を大きく脅かすものとの認識がされていましたが、それから長い時間が経過した昨今では、当初に思い描かれたほどECが実店舗を駆逐するというほどではないという実情が見えてきました。特にファッション関係のECサイトに関しては、実店舗販売との棲み分けが顕著になっています。

ファッション業界においてはECサイトのさらなる普及を目指したさまざまなチャレンジが実践されています。その中でも「テイラースティッチ」が行っているチャレンジは新機軸として注目に値します。
「テイラースティッチ」の何がスゴイのか検証してみましょう。

テイラースティッチがなぜ鎌倉に出店したのか

テイラースティッチとはアメリカで設立されたファッションブランドで、アメリカ国内では実店舗を2店しか持たず、逆にEC化率は実に90%にもおよぶというユニークな特長を持つブランドです。日本国内のアパレルブランドにおいて、特にECサイトによる商品の販売に力を入れているナノ・ユニバースでも、EC化率は40%程度であることから、テイラースティッチがいかにECに力を入れ、かつ成功しているかは明白です。

また、ECでの商品の販売においてはクラウドファンディングを利用しており、その点からもテイラースティッチが行うEC戦略は過去に類を見ない、斬新なものであることがわかります。

そんなテイラースティッチがアジア進出の第一歩の地として選んだのが日本の鎌倉でした。このことに対し、なぜ表参道でも原宿でもなく鎌倉なのかという疑問は多くの人が抱いたことと思われます。しかし、ライフスタイルに絡めた商品イメージを打ち出すことを特徴のひとつとするテイラースティッチが、独自の発展を遂げ、現在では古いものと新しいものが絶妙に共存している鎌倉をアジア進出のために選択したことは大いに理に適っているといえます。

ECサイトで服を買う?ショップで買う?

現在一般的になっているECサイトは、ECサイトが登場した当初の目論見に反し、その普及率では実店舗販売に大きな差をつけることができなかったという点で、何らかの問題を孕んでいるのではないでしょうか。続いてはその問題をテイラースティッチの例と比較しながら考えてみましょう。

特にファッション系のECサイトの場合、一度そこで服を購入すればその顧客がリピーターになる確率は決して低くはありません。しかし、ECサイトの問題点はある時期を過ぎてから新規顧客の取り込みが容易ではなくなったというところに見られます。例えば、実際に商品のサイズ感を確認できないためECサイトで服を購入することに抵抗を感じるという人は、何年たっても「EC体験」をすることはない、という傾向があったのです。

これに対し、テイラースティッチはそもそも実店舗数が極端に少ないため、購入希望者はほぼ例外なくECサイトで商品を購入することが前提です。また、ブランドに対して興味を持ってもらう方法としては、デザイン性が優れたサイトの構築だけにとどまりません。サイトのオムニチャネル化による多種多様な手段での宣伝、さらには巨大な工場で大量生産された服ではなく、少人数で経営されている小さな工場で丁寧に作られたカスタムシャツを、クラウドファンディングによって入手するという真新しさもそのひとつとなり得たのです。そして、それらがファッション系ECサイトのデメリットを超越したといえます。

以上のことから、ショップで服を購入している顧客を新たにECサイトに取り込むことは容易ではありませんが、テイラースティッチのような斬新な方法を実践すれば、そのことは決して不可能ではないといえます。

棲み分けが機能しているのか?ショップとECサイト

続いては、EC購入率がいまだに上がらない現状についてもう少し詳しく分析してみましょう。

上述したようにECサイトが登場し、普及し始めたころにはその真新しさや斬新さから、多くの人が「これで実店舗は必要がなくなる」と考えました。実際、ECサイトは登場以降多くの企業が導入し、それらはアマゾンや楽天市場のような大型ECサイトの台頭にもつながりました。

しかしながら、特にファッションというジャンルにおいては、ECサイトを利用して購入した商品に関し、「色がサイト上の画像とは違った」「サイズが合わなかった」などの理由から返品・交換の申し出が絶えることはなく、そのことはこの業界におけるECサイト運営に関する大きな問題点として長きにわたって存在し続けていました。

この問題に対する明確な解決手段は考案されることはありませんでした。しかし、それはECサイトの限界を示しただけではありません。実店舗ならではの商品を実際に確認し、試着することもできるというメリットの存在がより明確となったのです。

ECサイトと実店舗には双方に異なったメリットとデメリットが存在します。しかし、双方は必ずしも相反する存在ではなく、棲み分けが可能であるということが明らかになりました。そのことがEC購入率に歯止めをかけたと考えることができます。

テイラースティッチの革命~次世代の体験型EC

テイラースティッチの日本における戦略で特徴的な点としては、ITアウトソーシングサービスを提供する「トランスコスモス社」との提携を結んだという点も挙げられます。

テイラースティッチは、トランスコスモス独自のデジタルマーケティングの技術を生かすことで、顧客のデータから判明したニーズをより細かく分析することができるのです。また、それをもとにしたECサイトでの動員施策も実施する見込みです。

また、テイラースティッチではサイトのオムニチャネル化にも注力していることから、そこに顧客のニーズを反映させることによる「次世代の体験型EC」の提供開始も期待されます。

オムニチャネル戦略の新機軸のまとめ

ここではECサイトでの販売との相性は決してよくないとされてきたアパレル商品を取り扱うブランドでありながら、独自の施策を打ち出すことによってEC化率を90%にまで押し上げたテイラースティッチの例を挙げ、ファッション業界における次世代のEC体験について解説しました。

鎌倉を拠点としたアジア進出など、ECサイトの運営以外においても斬新さが際立つ同ブランドの動向からは今後も目が離せません。特にECサイトの運営に関わる人にとっては要注目の存在といえます。

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