実例にみるアパレル業界のオムニチャネル戦略~国内オムニチャネルの変遷

実例にみるアパレル業界のオムニチャネル戦略~国内オムニチャネルの変遷

ECサイトはどこにいても希望する商品を簡単に購入できるという利便性を実現し、市場だけでなく消費者に対しても大きな変革をもたらしました。しかし、アパレル業界におけるECサイトを利用した商品の販売では、商品のサイズ感などを確認できないといった実際的な問題が伴うことも事実です。

このような問題の解決手段としてブランド業界ではオムニチャネルへの移行が増しており、特に意欲的なショップはECとの連携を率先して行っています。ここではその実例をいくつか挙げ、アパレル業界におけるオムニチャネル戦略と、国内オムニチャネルの変遷について解説します。

オンワードホールディングスのタブレット戦略

オリジナルアパレルブランド「KASHIYAMA」などの展開も行うオンワードホールディングスでは、2016年4月にオムニチャネル化の推進とEC事業の強化を発表しました。その一環としてはじめられたのが店頭におけるタブレット端末を使用した接客です。

この戦略では店頭で接客を行う際に、顧客が購入を希望する商品の店頭在庫が切れていた場合、タブレット端末を利用して同社のECサイト「セレクトスクエア」から取り寄せることによって、機会損失の防止が可能となります。また、タブレットを利用したコーディネートの提案をすることによって他の商品の購入にもつなげられることなどから、ECサイトの連携以外の点でも大きなメリットが存在します。

ユナイテッドアローズの総合的戦略

店舗とECサイトの連携を早い時期から開始していたユナイテッドアローズは、ECサイトのオムニチャネル化も積極的に行っています。

同社が早期から行っていた店舗とECサイトの連携では、在庫状況の一括管理をメインとしていたことから、現在のオムニチャネル化においても在庫の管理は徹底して行われており、在庫過多や機会損失などを防ぐことにも成功しています。

また、現在では顧客一人ひとりの購入履歴などをデータ化し、それに基づいた好みの傾向などを明確にするレコメンデーション機能を活用した接客にも力を入れています。また、このような顧客を対象としたレコメンデーションにおいては、購入履歴などの顧客個人のデータだけでなく、幅広い顧客を対象としたマーケティングによって収集されたデータや在庫状況、POSデータなども活用することで、サービスのさらなる充実化を図ることが可能です。社内におけるこれらのデータを、組織を横断して管理し、十分に活用するためのシステム開発を積極的に行っています。

ユニクロの意欲的な目標~EC率を50%に上げる

上述したとおりファッション業界とECサイトの相性は必ずしもよいわけではないため、EC化率は決して高くはありません。例えば、商品販売におけるEC化に積極的な「ナノ・ユニバース」のようなアパレルブランドでもEC化率は40%程度です。EC化の促進が決して容易ではないことは想像に難くないでしょう。

それに対し、ファストファッションブランドとして海外展開を行うユニクロは、2015年10月の決算発表にて、当時5%程度だったEC化率を30%~50%にまで拡大することを宣言しました。そのための対策のひとつとしてユニクロはサイトのオムニチャネル化を促進することを明言しました。具体的には店舗とECサイトを連動させた在庫管理体制の確立、消費者のニーズに合わせた商品の購入・受け取り方法の多様化、いつ、どこにいても商品を選び、試着ができるようにするための環境整備などが挙げられています。

また、それと同時にユニクロでは大和ハウス工業との提携による新たな物流の仕組みの構築や、革新的なデジタル顧客体験の構築の実現を目指すことも明言しており、巨大企業ならではの意欲的なオムニチャネル化が期待されます。

オムニチャネルの将来性と現実問題

ECサイトを運営する多くの企業から聞かれるようになった「オムニチャネル化」という言葉に対しては将来性を感じるという方も少なくないでしょう。しかしながら、現状では楽観視できないようです。

例えば、大規模なオムニチャネル化と共に誕生したECサイトとして有名なセブン・アンド・アイ・ホールディングスが運営する「オムニセブン」は、サイト開設時こそ大きな話題を呼んだものの、その後の低迷ぶりはよく知られており、決して成功したとはいい切れないのが現状です。また、全体的にみてもオムニチャネル化が敢行されたECサイトの成功例は決して多くはありません。

このことから、オムニチャネル化に対しては業種・業態によって成功の鍵がどこにあるのかをしっかりと検証しながら方向性を決定していく必要があります。しかし、今回紹介した例の他にも、海外のファッション系サイトではオムニチャネルの成功例は多くあります。例えば、バーニーズやメイシーズなどは的確なオムニチャネルで実績を伸ばしています。

実例にみるアパレル業界のオムニチャネル戦略のまとめ

オムニチャネルの将来性に関しては国内外を問わず幅広く議論がされています。しかしながら、現状でその成功例は必ずしも多くなく、ここで紹介した成功例は一部であるということも忘れてはいけません。そのため、オムニチャネルは、それ自体が誕生から間もないものであり、今後の推移をじっくりと観察しながら、その真価を見極める必要があります。

マーケティングカテゴリの最新記事