かつてのアパレルブランドでは、店舗運営にかかわる事業部とECサイト運営にかかわる事業部を独立させ、各々で売上アップを図るというのが一般的でした。ですが、昨今では店舗とECサイトだけでなく、その他の事業部とも密な連携を図ることにより、より規模の大きな売上アップが図れることがわかってきており、ブランド全体としての組織力が重視されるようになりつつあります。
ここでは、特にアパレルECサイトが売上アップを図る上で重要なブランド全体としての組織力について、ユナイテッドアローズなどの事例を挙げながら解説します。
なぜ組織力が必要なのか?
ECの運営において組織力が重視されるようになった背景をみていきましょう。店舗とECを独立させて運営するよりも双方を連携させながら運営を行ったほうがサービスのさらなる充実化が図れるようになります。それによる顧客満足度の増加が売上にも大きな好影響を与えるとの考え方が広まっています。
ECと店舗が連携をすることによって顧客満足度を上げ、売上アップも図ることが可能となる具体的な例としては、在庫管理が挙げられます。
例えば、ECと店舗を独立させて運営を行った場合、特定の商品に関してECサイトでは在庫切れが発生しているのに、店舗では大量に在庫が残っているという状況が発生するかもしれません。
これに対しECと店舗を連携させて運営した場合、双方の在庫管理も一括化して行うことで、特定の商品がどちらかだけで在庫切れとなっているという状況が発生するのを防ぐことができます。また、これによりECサイト掲載商品の店舗取り寄せサービスなどの新たなサービスの導入も可能です。
以上のことから、店舗とECのベストな関係を構築する上でも組織力の強化は欠かせないことがいえます。
ユナイテッドアローズの実例~試行錯誤の連続から見えたもの
リアルとバーチャルの融合を可能とする最新のWebトレンドのひとつである「オムニチャネル化」。オムニチャネルで成功したECサイトの運営の見本としてブランドを挙げるとするならば「ユナイテッドアローズ」でしょう。しかし、そのオムニチャネル化の方向性を確立していくまでの経緯は、決して平坦なものではありませんでした。
2005年からZOZOTOWNへ出店をするなど、早い時期からECにも力を入れていたユナイテッドアローズは、2009年に自社ECサイト「UNITED ARROWS LTD. ONLINE STORE」を立ち上げました。しかし、このECサイトの売上は立ち上げ当初から好成績を収めていたわけではなく、社内からはECはZOZOTOWNだけでよいのではとの声も上がっていたそうです。
これに対しUNITED ARROWS LTD. ONLINE STOREの運営陣は、店舗とECの相乗効果の存在を明確にするデータを裏付けとして店舗との連携を行いながらECへの顧客取り込みに尽力し、徐々に業績アップと規模の拡大を実現していきました。事業部の垣根を超えた組織力の重要性は比較的早い時期から認識していたということが窺え、そのことは同サイトのオムニチャネル化にも大いに活かされているといえます。
スマホ時代の新戦略
現在ではパソコンを持たずに、Webサイトの閲覧はスマホだけでしか行っていないという人も多く存在します。例えば、上述したユナイテッドアローズでは既にECのセッション数の70%がスマホからというデータも出ており、スマホユーザーをいかにして取り込むかがECサイトの運営において重要であるかは明白です。
このような「スマホ時代」へ対応するための戦略として、多くのアパレルブランドは公式アプリのリリースを行っており、それによって会員数を増やすことにも成功しています。ですが、このような気軽に入手できるアプリの会員数が増加したからといって、必ずしも売上に直結するわけではなく、中には会員数は多いがアクティブユーザーは少なく、売上も伸び悩んでいるというブランドも存在します。
そのため、スマホ時代におけるアプリを利用した戦略においては、アプリの閲覧数を伸ばすためのコンテンツの充実だけでなく、個々のユーザーの好みに合った「1to1」の情報提供を目的としたメルマガの活用なども重要です。
アパレルサイトはハイブリッド型サイトが主流に
ユナイテッドアローズの事例からもわかるとおり、在庫管理やECサイト内の在庫の店舗での取り寄せなどの新たなサービスを行えるという点で、特にアパラレルブランドにおいては店舗とECサイトの連動が新たな販売経路を切り開けるというメリットがあることは明らかです。そのため、世界的にみてもブランドサイトとECサイトを統合したハイブリッド型サイトを導入するアパレルブランドは多くなっており、まさに現在のトレンドということができます。
また、このようなサイトのハイブリッド化では、店舗で行っているお直しやギフトラッピングなどのサービスがECサイトでも同様に提供できるようになるというメリットもあり、上述したスマホを利用したアクティブユーザー獲得のための施策としても有効といえます。
このようにアパレルサイトにおけるハイブリッド化には、サービスやコンテンツの多様化の土台を構築することができるという点で大きなメリットがあります。
アパレルECにみる組織力のまとめ
ここではユナイテッドアローズの事例を参考にしながら、ECサイトの運営における組織力の重要性について解説しました。
特にアパレルブランドでは事業部間の垣根を取り払い、組織力の強化を図ることによってサイトのオムニチャネル化の実践が可能となり、売上アップにもつなげられます。そのため、組織力を重視し、ブランド全体を統合した戦略を練ることが今後のアパレルECの方向性を決定する上で重要となることは間違いないでしょう。